さて、とりあえず近い中古店から回っていくか。で、定価以上の価値を理解できる店なら、その場で売っちまっていいかな。
越前は早速、もっとも近い『わんぱくりむぞん小僧福井県越前町店』にデスクリムゾンを持っていった。
「せっかくだから、このソフトを売るぜ」
「はい。買い取りですね。査定をしますので少々お待ち下さい」
この待ってる時間ってのは佐藤を撃っちまった時に似た、なんとも嫌な感じだぜ。
越前はそう思いながらデモ機に目を移す。デモ機では、ガンバレットのデモが映っている。
フッ、なんだぁこのナムコはぁ。1画面固定か〜。デスクリムゾン見習えよこらぁ。ハッハッハッ
越前が悦にひたった笑みを浮かべていたところ、
「越前様、査定終わりました」
「おぉ。せっかくだから定価の2倍以上はつけるなよ。それはそれで悪い印象にとられちまうこともあるからなぁ」
越前はどうやらセンチメンタルグラフィティファーストウィンドウの事を言っているらしい。店員は笑いながら、
「50円です」
「オーノー」
越前がすぐさまクリムゾンを取り出し店員を撃ったというわけではない。その査定額に驚いて越前が口にしたオーノーだった。
「な、……なんだぁ、その買い取り額はぁ」
「お客さん、子供がCDに自分の名前書いちゃってるんですよ。こうするとどうしても買い取り金額も落ちちゃってねぇ。これからは、こういう事は辞めさせた方がいいですよ」
こ、子供だとぉ……。子供じゃねぇ主人公の俺様が書いてやったんだ。と言おうと思ったが、更にみじめになるとのとっさの判断から越前は何も言わず思いとどまった。
所詮、田舎の店。理解できない店があっても仕方ないぜ。越前は、買い取りを辞めデスクリムゾンを引き取り店を出た。
「あの、申し訳有りません。ちょっとよろしいでしょうか……」
トレンチコートに帽子を深く被り、サングラスとマスクをかけた、いかにも妖しそうな大男が越前に声を掛けてきた。
「このやろお。なんか用かぁ」
越前は買い取り金額の低さにいらだっていたためもあり、かなり高飛車な態度で相手に応じた。そして、もしもの時のために右手は服の中に入れ、その中のクリムゾンを握りしめていた。
「実は、先ほど買い取り査定中の越前様のサイン入りCDを拝見したのですが……」
まだ話の途中だが、越前はそこまで聞いてこの男を殺す意志を固めた。あの恥ずかしいシーンをこの男に見られた以上、もうこの男をどうしても殺すほかない。
「……それで、是非とも、私どもにそのCDを売って頂きたいのです。私どもは実は、大人気ゲームの熱狂的なファンが欲しがるレアアイテムを取り扱うお店……というよりブローカーでして、是非とも越グッズを入手したいと、越前様の近くのお店を回っていたのです」
「なるほどなぁ、よし、判ったぜ。けど、これはあくまで地元振興策だったんだかなぁ……」
「私どもがメインにしております大都市では、越グッズの入手は大変困難です。どうか大多数のファンのために、そして最も欲しがっているファンが手に入れられるために、我々に売って頂けないでしょうか」
「と言っても1枚だしなぁ……」こういう時の交渉術は心得ており、異様にじらす越前。
「はい。ついでに頼むとしては、本当におこがまし過ぎるのですが、もしよろしければ、当方でデスクリムゾンCDを用意しますので、1枚3万円程度でサインを入れて頂けないでしょうか。そうすれば本当に望むファンの方々の大部分に行き渡る事になるのですが……やはり、こんな厚かましい事は、お願いできないでしょうか……」
3万……名前入れただけでなら、こいつはでかいぜ。KOT症候群患者のカルテ書いたって診察料じゃあ、こんなに取れないぜ。