本機は外形寸法806W×330H×513Dと木製削り出しホーンとしては従来考えられなかった程の大型ホーンです。従来のホーンはカットオフ周波数に対して開口部の開き寸法が狭いものが多く、1KHz以下で周波数レスポンスが低下したものが大部分でしたが、本機ではその部分を改良するべく開口面積に比べてカットオフ周波数を高目に設定致しました。ホーンの広がりには従来のホーンではエクスポネンシャルホーンの常数が用いられることが多かったのですが、この方式ではカットオフ付近の周波数特性が下降する傾向が見られました。そのため弊社ではハイパーボリックホーンのカーブを採用して、カットオフ周波数の280Hz付近までほぼフラットでワイドな周波数特性を得ることに成功しました。従来、ホーンスピーカーのクロスオーバー周波数はカットオフ周波数の2倍以上でないと実用にならないと言われていました。しかし本機ではホーンの広がり常数を見直すことによりカットオフ周波数の1.5倍の周波数である400Hzから使用できるようになっております。
本機の上下板は810×470×142mmという極めて大きなアサダ桜の集成材ブロックから削り出すという方法で製作しています。その板1枚の重さは約40kgあります。さらに側板も62mm厚の集成材から削りだし、トータルでは1台当たり100kg近い集成材が必要です。集成材は原木を板状の素材にしてそれを積層して製造しますので元の原木ではホーン1台当たり250kg近い材料を必要とします。これは木製削り出しホーンとしては最大限のもので、削り出しの為、ほとんどホーン鳴きがなく、大型ホーンに付きものだったホーン鳴きから開放された澄み切った再生音が得られます。
F280Aでは集成材の板材を、音の伝達速度が秀れた、前後方向に向けた縦方向使いとしています。そのため、音の拡がり、音放れが良く、クリヤーでスピード感にあふれた音を得ています。 また、内部のセパレーターフィンは音道の中にあり薄くて強度的に弱くなる箇所で、鳴きが心配されます。本機では非常に硬く丈夫なアフリカ黒檀材を使用し、さらに上下板にミゾを切ってセパレーターフィンを挟み込む形で組み立てていますので、薄く鋭いセパレーターフィンながら十分を強度が確保されています。
当方のホーンは以前から、内部にセパレータ・フィンを持たせたサイドカーブ型のデイフラクションホーンの形状を踏襲してきました。本機ではその考え方を維持しながらさらに上下方向の指向性をも向上させるため、上下方向の開き始める位置を、従来ではフィンの終了点からであったところを、もっとスロート近くに寄せ、スロート間近から徐々に開いていくように設計しました。それによって垂直方向の指向性をより低い周波数までコントロールできるようになり、その結果、周波数特性を中低音域で向上させ、よりフラットでスムーズな周波数特性を得ることに成功しました。
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