「せっかくだから、人質になってもらうぜ」
越前は先ほどまで、もみあっていた部下の一人の首にナイフをあてる。越前に向かおうとしていた部下達の動きが止まり、ボスの顔を伺う。
「俺はもう帰るぜ。こんな気分じゃCDにサインなんて入れていけないぜ」
「越前君、君は勇気正義感平均以上なのだろう?」ヘブンハリヤードのボスは、刃物で脅すといった直接的暴力行為を越前が行った事の誤りをさとす。
「せっかくだから、正義感の採点基準を変えたぜ」子供の論理だが誰も笑わずヘブンハリヤード側は深刻な顔をする。
「越前君、君が人質をとった所で私たちはここから君を動かす事はない。おしっこどうする?もらしたら写真にとってGeocitiesから世界に流れるんだよ」
くっ、どこまでも汚いやつだぜ。しかししばらくは時間が稼げるな……さて、どうする……やはり自然かつ優雅に誰も殺すことなく、ここから抜けたいぜ。俺には出来るはずだぜ。マルマラ国の傭兵時代だって、無事に抜けきれたじゃねぇか………………よし、これしかないぜ。
越前はナイフを投げ捨てた。ヘブンハリヤード達は多少驚き、越前の出方を待っている。そして越前は、
「上から来るぞぉ、気をつけろぉ」
と言って、銃を持つ時の格好をしてヘブンハリヤード達の隙間を走って行く。
武器を持っていない事もあり、ボスの顔色伺いと越前の現状の確認を交互に行う部下達。ボスは固まったままだ。
部屋にいる全てのヘブンハリヤード達を越えて階段に近づく越前。
「なんだぁ、この階段はぁ」
「とにかく、入ってみようぜぇ」
階段を上ろうとしたその時に、
バーン
ヘブンハリヤードのボスが越前を撃った。階段に前のめりに倒れる越前。血が大量に流れ『赤の階段』になってしまった。
「や、やりやがったなぁ」
静かにそう喋る越前。それとは対照的にヘブンハリヤードのボスはガクガクと震えている。
「こ、これしかなかったんだ。…………誰かが突っ込みを入れないと……しかしハリセンはもう届かない位置に越前君はいたし……」
後半は言葉にならず越前の体に泣きつくヘブンハリヤードのボス。それを見て唖然とする部下達。その部下達の視線も気にせず、泣きながら越前の手を握り、何度も謝るヘブンハリヤードのボス。
もうろうとする意識の中で越前は必死に頭を働かしこの異様な状況の原因を推測しようとしていた。「そういえば前から妙に俺に対して丁寧な言葉遣いだったな……こいつ、ひょっとして……」
越前は目の前に迫った死よりも大きな恐怖を感じ取った。
「越前君を撃つだなんて……本当にすまない。けど、大丈夫だ。越前君の美しさが永遠に保たれるように、はく製にしてあげる」
それを聞き、顔がひきつるヘブンハリヤードの部下達。おそらく作業は彼らがやるのであろう。
「まさか、そんな形で死んでから使われるとはな……ちょっとショックだぜ」
死の覚悟は出来ていたが、死体の利用方法に関する検討を越前は何一つ行っていなかっただけにショックは大きかった。
その後は意識がほとんど途絶えてしまったが、越前は最後に、今後予想されうる事態を的確に推測する事に成功した。
「要は大人の玩具じゃねぇか、くっそぉ」