「お、エレベータがあるぜ。おまけにエコールソフトって張り紙がしてあるぜ。よしアンリよくやったな」
「ね。僕の言ったとおりでしょ」アンリの顔に明るさが戻る。
「しかし金属プレートに紙を張るってのは貧乏くせぇぜ。これじゃあ労使交渉は厳しい予感がするぜ」
「僕は、声出す人増やしてもらうだけでいいから。そんな有名声優とかでなくっていいからお願いしたいな」
「おいアンリ、矢野さんでもいいのか?」
「えー、僕やだよ」
バーン
「う、うん。矢野さんでいい」
「よし。せっかくだから、俺はこの赤のエレベータを選ぶぜ」
6Fに到着しエレベータの扉が開く。前には扉があり電話が備え付けてある。どうやらこれで外部と会話するようだ。越前は早速受話器を取り、
「俺だぁ、越前だぁ」
「当社の事を何で知りましたか?」
「このやろお」
「僕、アンリ。ねぇ開けてよ」
「せっかくだから、俺はこのエコールの扉を選ぶぜ」
電話を使う意味のない会話の後、越前はドアを開けて中に入る。
「越前だぁ、よくも勝手にゲームに使いやがったなぁ肖像権侵害だぜぇ」
「僕、アンリ。ねぇ声出す人もっと増やしてよ」
「じゃ、これに書いてね」
全然かみ合わない会話。とりあえず住所・氏名を書く越前とアンリ。書き終わった頃に、真鍋社長がやってくる。
「で、ご用件はなんでしょう?まずは越前さんから」
「デスクリムゾンやってみたぜ。今考えてみたら、あれって俺の肖像権侵害してるように思うぜ。そこのところどうなってるんだ?俺としては穏便に事を進めたいと思ってるんだがな」
「なるほど。次アンリ君どうぞ」
「ねぇ声優少なすぎるよ。みんな集まって話してると誰が誰の声か判らなくなっちゃうんだ。声優増やして欲しいんだ」
「う〜〜ん、まず越前さん。我々は越前さんの創造主として越前さんの所有権があると思います。次にアンリ君。声優を増やすには次回作で行うのが合理的だと考えます。だからゲームファン達にぱっぱら2を作るように盛り上げていってくれますか?そうして次回作が決まれば声優を増やすことを約束しましょう」
「このやろお。お前のキャラでも人権はあるぜ。なんだぁ、その所有権ってのは。」
「無理だよ。デスクリ好きな人でもぱっぱらには本当に怒ってるんだから。それにセガだって絶対許さないよ」
「う〜ん。そうですね〜〜………越前さん、発売して既に1年以上たっていますからねぇ。やはり出演費という形で解決するのが妥当ですね。そうだ。せっかくだから今作ってる作品に声優として出てみませんか?女性キャラの声に有名声優を起用したのはいいんですが、男性キャラの声までプロの声優さん雇うお金がなくってね。それで、その出演料にデスクリの出演料が含まれているという事でどうでしょう」
お、俺の声の良さをやっぱり真鍋社長は見抜いちまったな。さすが経営者。人を見る目があるぜ。声優デビューかぁ……今ブームだし、悪くないよな。
「OKだぜ。さすが真鍋社長だぁ、人の扱い方を知ってるぜ」
「ねぇ、ねぇ、僕は?僕は?僕はどうなるの??」
「諦めろよアンリ。声優の俺で良かったら声あててやるぜ」
「え!?僕やだよ。ハエオトコやサソリにならいいかも知れないけど」
越前がクリムゾンを取りだそうとしたのを見て、真鍋社長がその動きを止めるために喋り始める。
「アンリ君。これは保証はできないんだが、新作の音声収録時にプロの声優の人達に頼んでみるよ。収録の合間になら、きっと適当に喋ってくれるだろうし……それでいいかな?」
「え!?本当。やったぁ」
「はい。越前さん、せっかくだからはいらない」
厳しい指導が飛ぶ。
「せっかくだから、いらっしゃいませだぜ」
「越前さん、だから、「せっかくだから」は、いらないんだって」
越前は10数回のリテイクのすえ、ショップの店員等ちょい役ばかりを演じた。アンリ達、ぱっぱらぱおーんの仲間にも声優達により声があてられる。
「みんな万々歳だなぁ。真鍋裁定はなかなか公平だぜ」
「越前さん、ご苦労様でした。これ今回の出演料です」そう言ってスタッフにより封筒を手渡される。
「おぉ、ありがとよ」越前は封筒を受け取りスタジオを出る。スタジオの近くの路地で、誰も見ていないことを確認し早速封筒を開ける越前。封筒の中には3200円入っていた。
「なんだ、この金額わぁ。くっそぉ〜、このやろお、素人並じゃねぇか。まぁ新人で、これからスター声優になるんだし、しょうがねぇよな。しかし、スターになるとデビュー作って事でデスクリやドリジェネにまた注目が集まるなぁ。真鍋の野郎め頭いいぜ」
越前はとりあえず納得しながらも、東京のスタジオから福井県越前町まで3200円でどうやって帰るか考え、公園で野宿を重ねていった。