両手が塞がったうちにと、急いで逃げ出す先ほどまでのギャラリー達。その異状な事態に次々と遠巻きに集まってくる人。
そして、しばらくして……
「で、……出ないぜぇ」
越前は投擲体勢を取ったまま固まっている。正確には「ふぅ〜ん。む〜〜ん」といった気合いの言葉が漏れているが、外見からは固まっているようにしか見えない。
そして続々と集まる野次馬達。先ほどまでの事情を知らない遠巻き連中の中には笑い声までが漏れてきている。
パチン…………ピシッ
遠巻き連中の中からパチンコで越前を狙った者がいたらしい。越前に命中すると同時にドッと笑いが起きる。
「や、やりやがったなぁ……」こんな時でも明確に自分の台詞をわきまえている越前。
くっ、こんなズボンの中から顔出してるクリムゾンじゃなくって、遺跡にあったデスビスノスも欲しがったほうのクリムゾンで撃ち殺してやろうか……しかしそのために奴らの方を向けば、丸出しで更に笑われちまうぜ。例え10秒後にはレンコンになってたとしても……
越前は怒りに震えていたが、それもしばらくすればおさまり、今ではどうやってこの事態を収拾しようかと考え出していた。
「さて、どうする……後ろに向かってクリムゾンで野次馬撃つとしても命中率は低いぜ。そうなると、銃も進化できないぜ……やはり、まずは俺のズボンの下から顔を出してるクリムゾンを隠すために、前方のときメモ筐体ごと持ち抱えて外に出て、そのまま佐藤を装うか……しかし重いぜ……」そうこう迷っているとドタドタドタドタドタという足音が聞こえる。
「チャンスだ!店員が事態の収拾に来たな。こいつのせいにしちまえ」
越前はとっさに『突然、筐体が俺のズボンを破って、おまけに金縛りにされちまった。どうしてくれる!?』というクレームを考えついた。しかし、それは言われないままになってしまった。
「おい、お前」
野太い男の声が聞こえる。
「直営店のくせに店員教育できてないな」越前は自分の行為も忘れてそう思い、上半身だけ前を向け、キッと睨んだ。
そこには、ガードマン……いや、青い制服を着た警官が2名立っていた。
「お前何をしてる。はやくズボンの中にしまえ」
「あっ、うっ、くっ」越前は想定外の出来事に、何もしゃべれず、ダメージを受けた時の短い声のような音が漏れるだけになっていた。
「なんだファスナーがもう上がらないのか。じゃあ仕方ないこのまま来てもらうぞ」
越前は脇を警官に抱えられながら、そのまま群衆の中を突っ切る。群衆達は、もう大声で笑っても安心だと思い大爆笑している。
「きっとキリストが十字架に吊された時もこんな感じだったに違いないぜ……」越前は完全に戦意を喪失しうなだれたまま警察に連れられていった
「お騒がせ下半身男 逮捕してみれば銃不法所持」
読売新聞や朝日新聞に載った記事が比較的小さめだったのが越前にとっては救いだった。
しかし、内外タイムズや東京スポーツとかには大きく「二丁拳銃男 大阪茶屋町で逮捕」とイラスト・顔写真入りで書かれ、朝のテレビニュースの各スポーツ紙一覧でも取り上げられてた事を越前は知らない。